有栖川先生…歴史に残る小説家。本人は不老不死だと言い張るが平松くんは信じてくれない。
(作中では有)
平松担当…無慈悲かつ、冷酷な担当。地上最強の生物とも言われているが、本人は否定している。
特別読切「有栖川スペシャルの真実」
ここは有栖川先生の自宅。古き良き日本家屋といった佇まい。
その20畳ほどの居間に、二人の男性が向かい合わせで座っている。
一人は有栖川先生。40代で、未だに独身。
もう一人は平松担当。20代後半、淡々と原稿用紙を読む。
長い沈黙の時間。部屋に流れる音は、
原稿用紙と、アイボのキュイーンキュイーンという音だ。
先日、有栖川先生はアイボを買ったらしい。そう彼は自慢気に平松担当に語っていたが、平松担当は無視をしていた。
アイボが可愛らしくキュイーン、キュイーンというモーター音を鳴らしながら踊る。
すると、平松担当はおもむろにアイボを掴み
全力投球で、アイボをはるか彼方に投げる。
有「アンドリューーーーー‼︎‼︎」
遠くの空へ消えていくアンドリュー。アンドリューは星になったのだ。
有「普通、人の私物投げます⁉︎」
だんまりの平松担当。
有「無視!はい、出ましたいつもの無視!
あれいくらだったか知ってる⁉︎19万8000円だよ⁉︎
プレイステーション4と任天堂スイッチと新型X boxと、ドリームキャストを買ったとて、まだお釣りが出るよ⁉︎」
平松担当、原稿を読む。無視。
有「それ買っても、10万は残るよね。わかってる。残りはハンドスピナーでも買うよ。あふれんばかりの量でね。」
原稿を読み終え、一息つく平松担当。
平「有栖川先生、今回の原稿。ひとまずお疲れ様でした。」
有「何事もなかったかのような鮮やかな会話回し。逆に私が間違えていたのでないかとさえ思うよ。」
平「有栖川先生、今回の『探偵ベニーの真実』は読切の短編三作の状態で、大変な好評を頂きました。
探偵ベニーこと、黒羽ルイは女の心と男の体を持った探偵。
彼の周りで起こる事件は、全て彼の探偵事務所から巻き起こった事件。
彼は悪なのか、正義なのか。なぜその様なことになったのか。全てが謎に包まれたままの短編三作。
事件の終わりから始まる物語は、事件の起承転をすべて省き、結だけを描く。
『スガル』『セイギ』『ユメ』は斬新かつ現代的であるという評価を頂きました。」
有「めんどくさいからね。私、探偵ものとかよくわからないし。」
平「そして今回、とうとう探偵ベニーこと黒羽ルイの全ての始まりである物語。長編『探偵ベニーの真実〜愛の起源』は、連載前から日本中の話題をよんでいます。」
有「感謝、感激、雨あらし。」
平「そしてとうとう始まった第1話目は、主人公黒羽ルイと、恋人である紅谷幸太郎の関係性が描かれています。」
有「ディープにね。」
平「そうなんです。ディープなんです。と、いうより小学生が書いたのかと、私は勘違いしました。」
有「いいえ、歴史に残る小説家。有栖川京士郎でございます。」
平「ええ、でわ、歴史に残る小説家 有栖川京士郎。
この原稿を読み上げてくれますか?」
有「嫌です。」
平「読め。」
有「嫌だ!」
平松担当、有栖川先生の鼻をへし折る。
有栖川先生、不老不死なので再生。
有「無意味だよね、私が不老不死である設定って。」
平「では、どうぞ。」
有「
こうちゃん、わたしはこうちゃんが大好き!
うん、僕もルイが大好きだよ。
わたしはこうちゃんがいて、世界が輝いて見えたんだよ。
ルイは大げさだなぁ。でもいま僕もすごくしあわせだよ。
わたしの名前は黒羽ルイ!警視庁捜査一課の刑事です!将来を有望されていて、次期警視総監なんて言われちゃってます!
でも、わたしみんなに秘密にしてる事があるんだ。
わたし、実は女の子なの!心は女、体は男。
性同一性障害って言うんだって!
ずーっと、ずーーっとみんなに言えなくて隠してたんた。だけどいいんだ!
だって私にはコウちゃんがいるから!
私の彼の名前は紅谷幸太郎。探偵をやってるの。
彼って、すごいドジでおっちょこちょいだけど、すっごく可愛くて、私の事をいっぱい愛してくれるの!
だから、私はいま世界一幸せです!
コウちゃん、ルイはコウちゃんがとっても大好きだよ!」
有栖川先生は、原稿を読んでいる最中に声を上げながら泣き始めた。
大粒の涙が頬を伝う。
有「平松くん…これ以上は…読めません。」
平「まだ後10ページありますが。この後、二人がホテルでイチャイチャする場面に切り替わります。
その描写だけとても生々しくて、あれ?これ官能小説?と、何度も目を疑いました。
んで最後の一文を読み上げて下さい。」
有「次週、新連載 超野生人レオ 爆誕!」
平「死ね!」
有「生きる!」
平松担当、有栖川先生の頭を吹っ飛ばす。
有栖川先生、不老不死なので再生。
有「民放だったら放送事故だよ?コレ。
各方面の方々から怒られるパターンのやつだよ。
不老不死の設定だから無駄に殴ってるでしょ?
逆にマイナスだからね。」
平「あなたが短編で書き続けたものは?」
有「探偵モノです。」
平「次週から連載するものは?」
有「超野生人レオです。」
平「出しますね、この原稿。」
有「ごめんなさい!平松くん、ごめんなさい!」
平「なぜだ!あなたはコレでいけると思っていたのでしょう⁉︎」
有「いけません!ふざけました!いけません!
だって!だって私は探偵モノなんて書いたことないから!
謎とかトリックとか作れないし!」
平「じゃあなぜ、探偵モノなんて書こうとした!」
有「だって!だって!」
平「だって、なんだ!」
有「…名探偵コナンが1000話を超えたから…。」
平「記念に私も…ってバカ!書けもしないものを書くんじゃないよ!」
有「かたじけない。」
平「一ページ目だけ原稿送っておきます!」
有「えへぇ‼︎コウちゃんが大好きのところで送っちゃうの!その後、どうするの⁉︎」
平「なんとかなるでしょう。だってあなたは歴史にに残る小説家なのですから。」
有「いいえ、私は小学生の脳みそと大人の体です。」
平「では、来週までに原稿を仕上げて来てください。
以上、解散!」
そのままスタスタと去っていく平松担当。
打ちひしがれる、子ども脳みそ有栖川先生。
有「登場人物、コナンに変えちゃおうかな…」
本当にこのまま始まってしまうのである。
吉澤伊織のHP
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